令和拾遺物語

実話を元にした現代の拾遺物語です

スピリチュアルおじさん

関東に大変有名な心霊スポットがある。霊感のある人が近くを通りかかると、ここはやばい!と吐き気を催す程強力な霊力のある場所らしい。

 

そこへある噂が流れた。おじいさんの霊が出るらしい。しかし不思議なことに夜ではなく、決まって昼に出るのだという。フリーターの高志には甥っ子がいて、この甥が友達と肝試しに行き、本当に見たのだと言い張っている。なんでも体はガリガリでアロハシャツを着ており、墓石の横にビーチチェアを置いて日光浴をしていたんだとか。

 

「それただ住職か誰かが日光浴してただけだろ絶対」と高志が言うと、「じゃあ一緒に行こう」ってことになって実際にその心霊スポットへ出向いた。高志には霊感うんぬんは皆無なので、特に何も感じないまま現地へ到着。少し階段を上がると視界が開け、右奥にお墓がたくさん見える。

 

 

「あそこだよ、あそこにいたんだよ」

 

 

二人はテクテクそちらへ歩いていくと、確かにアロハシャツを着たおじさんがビーチチェアの上で寝っ転がっているのがあからさまに見える。

 

「あれを幽霊だと思ってんの?」と聞くと、なんでも甥っ子の友人の兄が霊視に成功したらしく、夏の海でナンパに失敗した男が、ショックのあまりこんにゃくゼリーしか咽を通らなくなり栄養失調で餓死してしまい成仏できずに彷徨っている、とのこと。

 

「あほらし。そもそもここ海なし県だから」と言って高志が帰ろうとすると、「信じないなら話しかけてくればいいじゃん」と甥っ子が言う。「いいよ」と言ってそのおじさんの近くまで歩いていくと、こちらに気づいたおじさんはなぜかダッシュでドドドッと向かってきた。

 

「ええ!?ちょっ!!逃げるぞ!!」

と二人は振り返って全力で逃げた。無事家に着き二人でスイカを食べながら「ね、言ったでしょ、幽霊だって」と言う甥っ子に、「いやあれは幽霊よりやばい」と高志は言った。

 

しばらくして高志は夏野菜の収穫バイトを始めた。そこは水耕栽培中心の農家で、夏は水の音が気持ちよく、暑いのを除けば出荷作業は楽なので、まあテキトーに働いていた。

 

そこへ新人と言われる人が入ってきた。そう、あのおじいさんである。高志は、「あいつだ」と直感で気づいた。

 

そのおじいさんは非常に礼儀正しく愉快な人で、すぐ職場に馴染んだ。占いや神社仏閣にも詳しく、女性のパートさんなどからもすごく人気があった。

 

ある女性が「占ってください」と言うと、「オッケーじゃあ手相見せて」と真剣な眼差しで占いを開始。5秒くらい左手を凝視した後、「ん~~〜、おや、あなた、もしかして、あぁ、あ!!!!!!・・・女性ですね??」などと言って笑いを取り、ますます人気は高まる一方だった。

 

 

しかし職場での地位を確固たるものにしたおじいさんに緩みが出はじめた。人間関係が適度に縮まると、本音を出して相手の許容度を量るタイプの人がいて、このおじいさんはまさにそのタイプだった。

 

 

「いやー実は昨日神と対話したんだけどね」

 

 

「夜中になるとサタンが飲みにこいってうるさくってさぁ」

 

 

などと少しアレな雰囲気が出始めた。

 

 

ある日パートさん同士が、

「先週あそこの神社で御朱印もらってさ、帰り道だったからあっちの神社もついでに寄ってお守り買っちゃった」

と楽しそうに話していると、

「あそこの神社へ行った後はそっち行っちゃだめだよ。神にも相性があって、やきもち焼かれると面倒だよ、幸せ逃げちゃうよ、このお守りはいいよ~」

などと割り込んで自作のお守りを売りつけようとするなど、職場で少しずつ浮くようになっていった。言動は少しずつエスカレートし、

「10月はお休みさせてください。出雲に行かなくてはならんのです。だって神だから」

などの発言が決定打になり、もう誰も相手にしなくなっていた。

 

 

ある日、社長の知り合いの農家へ収穫を手伝いに行くことになり、一同はハイエースに乗って現場へ向かい、それが終わるとまたハイエースに乗って帰路に就いた。

 

おじいさんは別人のように静かになり、車の中でも一言も口を利かなくなっていた。

 

それから疲れもあって車内が静かになった頃、ある学習塾の前を通りすぎると、赤い服を着た小さな女の子が立っていた。女の子はボーっとして、車道ギリギリのどころで直立不動、首を少し曲げて空中を凝視していた。

 

車中のメンバーはその女の子に少し違和感を抱き、「今の女の子、少し不気味じゃなかった?」などと言って少し大きな話題となった。

 

「なんか首の向き変じゃなかった?」

「なんかこの世のものではないような感じがした」

「あんなところに普通女の子立たなくない?」「車道ギリギリだったよね?」

と盛り上がっている。

 

高志は内心で、「いやいやどう見たって塾で親の迎えを待ってる小学生だろ、あほくさ」と思ったが、一番後ろの席に座っていたおじいさんがここだ!と思ったのか、起死回生の満塁ホームランを狙って久しぶりにフルスイングした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えちゃいました?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

車内には、「はいはいでたでた」「まーた始まった」「また言ってら」的な雰囲気もあったが、空気的に本当に霊かも、と信じかけた人も数人いたので、仕方なく今回だけおじいさんに打席を譲ることにした。

 

 

「センスありますよ、あれが見えるなんて」と少しボリュームを上げて言った後、

 

「座敷童の類かなぁ」

 

「邪気はなかったけど、地縛霊の可能性もあるな」

 

「念のためアレやっといた方がいいかも」

 

 

などと小声で、しかし確実に社内全員に聞こえるように言うと、何かを車内にばらまきだし、ハイエース内は軽いパニックになった。

 

 

「え!?ちょなに!?」「うわなにこれ!?」「おいやめて!!」

 

 

車内に罵声が飛び交い後ろを振り返ると、おじいさんは塩をばらまきながら、

「早ければ早いほどいいよ~念のため念のため~成仏してね~南無三!!」

とやりだし、ついにキレた社長は彼をクビにしたそう。