令和拾遺物語

実話を元にした現代の拾遺物語です

擬態

ある男が瞑想にハマり、臨済宗の寺へ足繁く通っていた。般若心経も暗唱できるようになり、初めはキツかった20分3セットの瞑想メニューも苦ではなくなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「呼吸と姿勢を整えれば自ずと心も整う」

 

 

 

 

 

 

 

そう住職に伝授された男はかなりいい感じの瞑想を体得しつつあった。

 

 

 

 

 

そのうちに物足りなさが男を襲うようになった。心は落ち着いてきたし、一時間の瞑想中に余計なことを考えることもなくなった。しかしなんだろうこの感覚は。それはもう一歩先の境域へ上がりたい、辿り着きたい、といった感覚に近かった。

 

 

 

 

 

「さてどうしたものか」

 

 

 

 

 

 

 

男は悩んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日山の中を散歩していると、一匹のトンボが木の枝に止まったのを目にし、男は

「これだ」と思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

足りなかった感覚。それは自然との一体感、いや、私自身が自然となることであった。瞑想では「無」を意識し、只管目を閉じ、そこには呼吸があるのみとなる。しかしながら本当の「無」とはただの「死」に過ぎず、生と無の両立とは何か、それを探り当てる必要があった。

 

 

自然に生きるものによって自分が自然であることを認められれば、この世における「無」の概念に最も近づくことができるのでは。色即是空。「全てがない」ということは、「全てがある」、ということである。

 

 

 

 

 

 

ではどうやって自然そのものになろうか。どのように自然に、自分は自然であると認めてもらえるのか。男はあのトンボをヒントにし、一つの悟りを得た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チンポにトンボを止めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チンポを勃起させ、そこにトンボが着地したら、自然が私を自然であると判断したことになるんじゃないか。

 

思い勃ったが吉日。

 

男は早速山へ籠り、自然と一体化する修行を開始した。

 

しかし当たり前だが一筋縄ではいかなかった。

 

 

 

 

 

チンポを勃起させても持って数分。萎えては勃起、萎えては勃起を繰り返したところでトンボは警戒して寄ってこない。瞑想はいい感じに実行でき、自分の身の回りをトンボがヒラヒラ飛んだとしても、勃起を維持することができない。このジレンマに苦しむことになった。勃起すると瞑想できなくなり、瞑想がうまくいくとチンポが萎えてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてどうしたものだろうか」

 

 

 

 

 

 

ある日AVを見ながらシコっていると、「ハッ」とあることが頭を過った。

 

 

 

 

 

 

 

バイアグラがあるじゃん。

 

 

 

 

 

 

確か昔インポの叔父さんが、「一回飲んじまうと自分の意志とは関係なしにぶっ勃っちまうもんで計画的に勃起させないとまじやばい」と言っていたはず。叔父さんはそのうち治まるだろうと楽観視したままスーパーへ行き、テントみたいになったスウェットのまま惣菜を物色していると、警備員に注意され警察を呼ばれそうになったとも言っていた。

 

 

男は早速叔父さんに電話し、「お前まだ必要ないだろ」と言われつつもなんとかはぐらかして一錠のバイアグラを手に入れることに成功した。

 

 

 

 

 

 

翌日。男は早速山へ入り、深呼吸し、集中力を高めた。そして、バイアグラを飲んだ。

 

 

 

 

約40分くらい経った頃だろうか。男のチンポはムクムクと勃起し始め、はち切れんばかりにバッキバキに硬直した。下手をすると勃ちすぎてギャランドゥへ食い込み、イカスミパスタ入りのホットドッグみたいになってるレベルである。

 

 

 

 

「すごいな、これは」

 

 

 

 

 

 

男はあまりの勃起に少したじろいだが、叔父さんは確か5時間くらいは勃ったままになると言っていたはず。焦ることはない。5時間もあれば充分である。男は早速瞑想を始め、無の境地へと突き進んだ。

 

 

 

 

 

しばらくすると精神は清流のように落ち着き、雑念も消え去り、葉の擦れる音、セミの声、風が森を通り過ぎる音、近くを流れる小さな川のせせらぎが心地よく、ギンギンに勃起したチンポは衰えるところを知らず、ついに男はフル勃起とフル瞑想の両立に成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

2時間くらい経過しただろうか、もはや時間感覚すらなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

男は完全に「木」になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風がチンポを掠め、木漏れ日はチンポを優しく摩っていた。

 

                                                                                                                     

 

 

 

 

しばらくすると、男はほんの少しカリに違和感を抱き、こっっっそりと下を向き、チンポを確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには一匹の大きなオニヤンマが止まり、キョロキョロと周囲を見回し、ふと上を向いて男と目合うと、ニコッと笑ったように見えたそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間男の目から大粒の涙が流れ、その涙に打たれたオニヤンマはまた世界へ飛び出していった。