令和拾遺物語

実話を元にした現代の拾遺物語です

真の思いやりとは

ある集落の近くの山に小さな厠がある。便所のことである。建設に際して会議が開かれ、村民が山の風景を壊すのはアレだろうっていうので、ログハウス風のオシャレな感じに建てられた。

 

それからというもの、その厠は大人気となり、わざわざその厠で用を足すために散歩がてら山へ入る者が増えたりして、いつも行列ができる有様になってしまった。

 

ある日村長がその厠で用を足していると、一冊のエロ本が大便の蓋の上に放置されていることに気付いた。そこへ村一番の変態、やっさんが入ってきた。やっさんは「よお村長」と言うと大便へと入っていき、「誰か入ってるの?」と思わせるほど中はひっそりとしていたが、5分くらいでジャーと流すとすっきりした顔で出てきた。

 

それからも山中の厠の行列は絶えなかった。中には埃のかぶった混合油の入っていない刈り払い機を持って山へ入ったり、刃の錆びた使い物にならないチェーンソーなどを持ち出して山へ入る者も出現し、集落の奥さん連中は井戸端会議でよくそのことを話した。

 

村長はいわゆるHSPなので、厠の外へいい感じの椅子を置き、スピーカーを設置してユーロビートを流すなどして“あの雰囲気”を演出。賛否を呼んだがクレームは一件もなかったという。

 

ある日、消防団所属の爽やか青年、沢村君が有名なテレビ番組を見て行動を起こした。なんでも暴走族の若者に市内の公衆トイレを掃除させたところ、全員改心して真面目になったというのだ。トイレの神様という曲が流行っていた時期でもあり、「トイレを掃除すると幸せなことが起きる」といった風潮が世間に蔓延っていたことも彼の意欲を刺激する着火剤となった。

 

彼はコメリでトイレ掃除キットを買いそろえると、早速山中の厠へ赴いた。

 

床から便器から壁からピカピカにし終えると、爽やかな気分で次の公衆トイレへと向かっていった。

 

翌日、集落で緊急会議が開かれた。

 

 

 

「トイレ掃除したの誰?」

 

 

 

 

 

聴衆の面前に先陣を切って立ち、初めに質問を投げかけたのはやっさんだった。

公民館はザワザワとし始め、男ばかりの聴衆は周りをジロジロ伺いながら様子を伺っていた。

 

爽やか青年の沢村君は、こういうのは陰徳と言って口に出したら運が逃げるとテレビで見ていたので黙っていたが、誉められたい欲望がそれを上回ってしまい、少しハニカミながらゆっくりと「はい」と言って手を挙げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っんてめぇかあああああ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言ってやっさんは沢村君に掴みかかろうとし、公民館は一時騒然となった。数人がやっさんを取り押さえ、「落ち着け」「手を出したら負けだど」「また買えばいい」などと言われながら羽交い絞めにされ、深呼吸を促されてスーハーやると落ち着いた。

 

 

 

 

 

沢村君は訳が分からずポカンとしていたが、それ以来トイレ掃除をやめてしまった。

 

目覚め

幼稚園児の森君の家系はインキンタムシの呪いにかかっていた。家族、親戚、ありとあらゆる血縁者がインキンタムシに祟られていた。理由は不明だが、とにかく親族が集まる正月やお盆などは、そこにいる全員が常に金玉を掻きむしっているといった有様だった。家やバッグ、車の中には常にオロナインが常備され、四六時中金玉をめくりあげてオロナインをベッタベタに塗りまくっていた。ある日などオロナインを忘れて家を出てしまった日は、東京駅の八重洲口前にあるセブンにスマホを置き忘れてきた時と同じくらい焦ったと叔父さんは言ってた。

 

そんな森君は幼稚園でいつもチンポをいじっていた。特に痒いわけでもなく、これといった理由はないのだが、親族が全員いつもチンポをかいているので、それが普通だと思って気づくとパンツに手を入れてしまうのだ。すると保育士の一人がそれに気付いた。

 

「どうしたの?ちんちんかゆいの?」

 

それに対して森君は「いやあ?」などと言ってはぐらかしていたが、保育士に、

「あーもうまたちんちんいじってる」「先生が見てあげようか?」「ほらちんちん触っちゃだめって言ってるでしょ」「ほらあまたちんちんいじってる」

などと言われるのが妙に嬉しく、その保育士の目の前に行ってわざとチンポをいじるフリをするなど将来性の高さを見せつけ、ついに母親が招集されてやめさせるように注意されるなど、才能の片鱗が輝きだしていた。

 

森君は大人になると、初めてセックスをする機会に恵まれた。池袋の安いラブホテルで、近所で有名なヤリまんがやらせてくれるというのだ。

 

 

しかし森君はイケなかった。っていうか勃たなかった。

 

 

彼は自分をゲイだと思い、近所のゲイにお願いしてみたがそれでも勃たず、

「なぜだ?なぜ勃たんのだ?」と自信を失いかけていた。

 

ある日先輩の誘いでSMクラブを訪れ、金玉を無意識に掻いていると、

 

「ちんちんかゆいの?」

 

と嬢に言われた。すると森君のチンポは雨後の筍のようにグングン伸び、爆発しそうになった。

変態コンサルタント

有名コンサルティング会社に勤める山村はK大學を卒業し、神主の友人が多数いる。

 

昨今では神社経営も楽ではなく、GHQによって解体された日本の神道文化は廃れる一方であり、戦前の国家公務員としての地位も失墜し、これからの神社は時代に合わせた経営が必要になるのだとか。

 

神主の草田は経営のプロである山村にアドバイスを求めた。

 

「うちの神社もそろそろ危ない。ほかの神社は独自で祭りなどを作ってうまく地域と協力し合ったりしているが、いかんせんこの辺りは田舎なもんで過疎っぷりも尋常ではない。何かいい方法はないもんかねぇ山ちゃん?」

 

山村は正直に答えた。

 

「俺の専門は医療関係だから正直神社の経営どうこうは門外漢というか、全く思いつかない。うん、見当もつきゃせんよ」

 

 

 

山村の営業成績はトップクラスだったが会社方針の利潤追求についていけず、自暴自棄になっていたというか、社会のあり方にも納得がいかず、実際もう死のうかと考えていた。彼はアルコール中毒気味になり、電車通勤も手伝って営業中にも酒をあおり、勤務中にSMクラブへ通うなど、もうほとんど人生がどうでも良くなっていた。

 

 

 

ある日草田は本格的に山村へ相談しようと思い電話をかけた。昼間から酒を飲んでいた山村は電話を受け、「やーやースカイウォーカー君、背中をシャキッと伸ばしなさい、んで、オビワンセノービ」などと言いながらお願いを了承し、草田の神社へ赴くと、早速ジャックダニエル片手に話を始めた。

 

 

 

「ぜぇんぶ僕がなんとかするからぁぁ」

 

 

 

 

その後経営改革を一任され、早速実行し始めた。

 

彼はまず、知り合いのデザイナーに頼んで巫女さんの衣装を作ってもらった。胸元が開け、大腿が大胆に露出するパリコレ風の巫女装束である。さらにベリーダンス教室へ通わせて踊りをマスターさせ、賽銭箱の後ろで巫女さんが踊り狂う八百万ナイトなるイベントを創設。変態パリピの歯抜けおっさん達が賽銭を投げまくる熱い夜を演出するぴょん。

 

さらに山村は鏡内にビデオカメラを設置、YouTubeにてライブ放送しスパチャを催促。投げ銭が入るとAIの巫女さんが「ナイスパ!」と返してくれるシステムを構築。

 

それから友人のプログラマーに頼んで神社アプリを開発。多様なプレイを楽しんでもらいたいとの願いから、シューティング、育成、ロープレ、レースなどの要素を搭載。

 

インベーダーゲーム形式で賽銭箱が縦横無尽に動き回り、そこに向かってスマホをタップして賽銭を投げ入れ、命中すると実際に課金されるという神秘のプログラムを開発した。

 

ロープレではさらわれた巫女さんを救うために神主が旅に出発。悪霊が出現すると画面に、

 

「祝詞を読め!」

 

と出るので指示に従って祝詞を音声認識させ、間違えずに読誦できれば悪霊退治ができる。

 

シミュレーションでは自分で神社を作ることができる。しかし注連縄を作成するのに大麻草が必要なので、まずは大麻草を手に入れるために役所を説得するところからゲームが始まる。選択画面には、

「土下座」 「キャバクラで接待」     「賄賂」  「美人局」

 

などが現れ、うまくアレすることでよりよい神社を作ることがきる。

 

鳥居を作る際は注意が必要だ。村を回って建築士を探し出し、気難しく絡みづらい一級建築士のげんさんに商談を持ちかけると、ストレスでライフと所持金がだいぶ減ってしまうが立派なものを作ってくれ、ノリの軽い若手2級建築士のてっちゃんにお願いすると間違えて鳥小屋を作ってしまったりする。

 

しかし要素は満載。

 

そこで育てた鳩をレースに参加させることによって大金持ちになったり、めっちゃ速い鳩を実際に800円くらいで課金させランキング上位を狙わせるなど、飽きさせないための工夫を散りばめる。そのうちに神社より鳩レースの方が儲かるじゃん!と気づいたユーザーはレースに夢中になるが、2級建築士のてっちゃんの仕事が増えすぎてブラック化、嫌になって暴走族に入ってしまい鳥小屋を破壊されるなど予想外の展開もちらほら。

 

それらを知った草田はブチキレ、契約解除を迫った。

 

 

「じゃあお守り屋台を作ってパチンコとか競馬場の前で売るってのはどう??」

 

 

こうして山村は友人を一人失った。

擬態

ある男が瞑想にハマり、臨済宗の寺へ足繁く通っていた。般若心経も暗唱できるようになり、初めはキツかった20分3セットの瞑想メニューも苦ではなくなってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「呼吸と姿勢を整えれば自ずと心も整う」

 

 

 

 

 

 

 

そう住職に伝授された男はかなりいい感じの瞑想を体得しつつあった。

 

 

 

 

 

そのうちに物足りなさが男を襲うようになった。心は落ち着いてきたし、一時間の瞑想中に余計なことを考えることもなくなった。しかしなんだろうこの感覚は。それはもう一歩先の境域へ上がりたい、辿り着きたい、といった感覚に近かった。

 

 

 

 

 

「さてどうしたものか」

 

 

 

 

 

 

 

男は悩んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日山の中を散歩していると、一匹のトンボが木の枝に止まったのを目にし、男は

「これだ」と思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

足りなかった感覚。それは自然との一体感、いや、私自身が自然となることであった。瞑想では「無」を意識し、只管目を閉じ、そこには呼吸があるのみとなる。しかしながら本当の「無」とはただの「死」に過ぎず、生と無の両立とは何か、それを探り当てる必要があった。

 

 

自然に生きるものによって自分が自然であることを認められれば、この世における「無」の概念に最も近づくことができるのでは。色即是空。「全てがない」ということは、「全てがある」、ということである。

 

 

 

 

 

 

ではどうやって自然そのものになろうか。どのように自然に、自分は自然であると認めてもらえるのか。男はあのトンボをヒントにし、一つの悟りを得た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チンポにトンボを止めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チンポを勃起させ、そこにトンボが着地したら、自然が私を自然であると判断したことになるんじゃないか。

 

思い勃ったが吉日。

 

男は早速山へ籠り、自然と一体化する修行を開始した。

 

しかし当たり前だが一筋縄ではいかなかった。

 

 

 

 

 

チンポを勃起させても持って数分。萎えては勃起、萎えては勃起を繰り返したところでトンボは警戒して寄ってこない。瞑想はいい感じに実行でき、自分の身の回りをトンボがヒラヒラ飛んだとしても、勃起を維持することができない。このジレンマに苦しむことになった。勃起すると瞑想できなくなり、瞑想がうまくいくとチンポが萎えてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてどうしたものだろうか」

 

 

 

 

 

 

ある日AVを見ながらシコっていると、「ハッ」とあることが頭を過った。

 

 

 

 

 

 

 

バイアグラがあるじゃん。

 

 

 

 

 

 

確か昔インポの叔父さんが、「一回飲んじまうと自分の意志とは関係なしにぶっ勃っちまうもんで計画的に勃起させないとまじやばい」と言っていたはず。叔父さんはそのうち治まるだろうと楽観視したままスーパーへ行き、テントみたいになったスウェットのまま惣菜を物色していると、警備員に注意され警察を呼ばれそうになったとも言っていた。

 

 

男は早速叔父さんに電話し、「お前まだ必要ないだろ」と言われつつもなんとかはぐらかして一錠のバイアグラを手に入れることに成功した。

 

 

 

 

 

 

翌日。男は早速山へ入り、深呼吸し、集中力を高めた。そして、バイアグラを飲んだ。

 

 

 

 

約40分くらい経った頃だろうか。男のチンポはムクムクと勃起し始め、はち切れんばかりにバッキバキに硬直した。下手をすると勃ちすぎてギャランドゥへ食い込み、イカスミパスタ入りのホットドッグみたいになってるレベルである。

 

 

 

 

「すごいな、これは」

 

 

 

 

 

 

男はあまりの勃起に少したじろいだが、叔父さんは確か5時間くらいは勃ったままになると言っていたはず。焦ることはない。5時間もあれば充分である。男は早速瞑想を始め、無の境地へと突き進んだ。

 

 

 

 

 

しばらくすると精神は清流のように落ち着き、雑念も消え去り、葉の擦れる音、セミの声、風が森を通り過ぎる音、近くを流れる小さな川のせせらぎが心地よく、ギンギンに勃起したチンポは衰えるところを知らず、ついに男はフル勃起とフル瞑想の両立に成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

2時間くらい経過しただろうか、もはや時間感覚すらなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

男は完全に「木」になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

風がチンポを掠め、木漏れ日はチンポを優しく摩っていた。

 

                                                                                                                     

 

 

 

 

しばらくすると、男はほんの少しカリに違和感を抱き、こっっっそりと下を向き、チンポを確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには一匹の大きなオニヤンマが止まり、キョロキョロと周囲を見回し、ふと上を向いて男と目合うと、ニコッと笑ったように見えたそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間男の目から大粒の涙が流れ、その涙に打たれたオニヤンマはまた世界へ飛び出していった。

神をも恐れぬナンパ師

あるアパートに宣教師の女性が引っ越してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神の教えを忠実に守ろうと思い、隣に住む男に挨拶をすると、自分がクリスチャンであることを告げ、聖書を渡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隣人を愛しなさいと神様は仰ったので、良かったらこれをどうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男はそれを受け取ると、「ありがとう」と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男はそれから何度も隣の部屋のインターホンを押し、「やろうよ」と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宣教師は何度も断り、「次に部屋に来たら警察を呼びます」とかなり強い口調で追い払

った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男はその女性の通う教会に行き、神父に向かって言った。

 

「あいつは信仰心が足りない」

ある日イオンをブラブラしていると、マラソン選手のような恰好をした男が屈伸運動をしているのをふと見つけた。男は二人組で、もう片方の一人はアシックスのジャージを着こみ、ストップウォッチを首から下げていた。

 

 

 

 

そこへ迷子の放送が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

「~君というお子様が迷子となっております。お心当たりのある方は一階事務室までお越しください」

 

 

 

 

 

するとさっきのマラソン男が走っていくのが見えた。

 

 

 

 

 

 

「おとうさんかな?」

 

 

 

 

 

 

周囲の目はそんな感じでその男を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

しかしマラソン男は数分後に息を切らせて元の場所に戻ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

片方の男が勢いよくストップウォッチを止めると、「いいと思う」と言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

近づいて、「何してるんですか?」と聞くと、なんでも死ぬまでに絶対ギネス記録が作りたくて、イオン一周のタイムを計ってギネスに申請しようと言うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういう人の迷惑になることはやめたほうがいいですよ」と優しく諭すと、二人は「すいませんでした」と頭を下げて帰っていった。

チャレンジャー

ある小学生たちがブラックバス釣りをしていた。すると一人の小学生が、

 

 

 

 

 

 

 

「チンポで釣るわ」

 

 

 

 

 

 

 

そう言い出した。

 

 

バス釣りにはよくワームと呼ばれる疑似餌が用いられ、ミミズのような形をしていたり、中には芋のような形をしているものもあり、種類は数百にも及ぶ。本来一度使用すると、開発段階で沁み込ませてある魚の好む臭いが消えてしまうので、一本につき一回の使用が基本だが、何度も使えるように専用の液が売られており、そこへ浸けておけば一応半永久的に使用できる。

 

 

チンポで釣ると宣言した小学生はみんながせっせとポッパーだのクランクだのスピナーベイトを投げている中、一人その液体にチンポを浸しては体を湖に沈める、といったことを繰り返していた。

 

 

 

 

 

「ンッバヒイイ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

ある日みんなが釣りをしていると、湖に浸かったその小学生が奇声を上げた。

 

「食った!!食った今!!!食ったぁあああああ!!!」

 

しかし事件は水中で起きているので誰にも真相が分からないし、食わせるのではなく釣ると豪語していたので特に誰も反応しなかった。

 

 

 

 

「見てみろよこれ、絶対バスの歯形だべこれ」

 

 

 

 

そう言ってチンポを見せびらかしていたが、そうも見えるし元からあるチンポの筋のようにも見えるしで、やはり誰も相手にしなかった。

 

 

 

数十年後、「ドクターフィッシュ」なるものがブームになった。なんでも小さな魚が古くなった角質を食べてくれるらしく、水槽に足を入れると一斉に群がってきて、その珍しさと話題性から結構人気があった。

 

 

 

 

 

 

 

はい、その通りです。

 

 

 

 

 

 

 

 

変態小学生が大人になり、やはり彼は変態のままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そいつは客がいない平日を狙ってドクターフィッシュのいるゲーセンだか温泉だかを訪れ、下半身を水槽へぶち込み、恍惚とした表情で魚にチンカスを食わせているところを店員に見つかって出入り禁止になったそう。

殻を破る

清水さんは非常に静かな人で、むしろ静かすぎるというか、中年にしてそれはちょっと限度を超えているというか、いわゆる拒絶恐怖症と呼ばれる疾患を抱えていた。

 

原因は幼少期のトラウマや躓き体験、挫折経験など多岐に渡るがはっきりとは断定できない。治療法と言えば投薬や認知行動療法、それから少し雑だが、最終的には「慣れるしかない」。

 

長いこと引きこもりとなってしまった清水さんは、それでもなんとかしたい、変わりたいと思っていた。しかしもうすでに自分一人でどうにかできる段階は当に経過してしまい、どうにもできないまま悶々と日々を送っていた。

 

ある日アマゾンでいい本はないかと探していると、「拒絶される恐怖を克服するための100日計画」という海外の本を見つけた。「お、いいじゃん」と思った清水さんは早速購入し読み始めた。そこには拒絶に慣れるためのユニークな方法が書かれていて、著者本人が実際に試した経験談が記されていた。

・ビルの警備員に借金を申し込む

・CAに機内アナウンスさせて欲しいと頼む

・見知らぬ人の家で「庭にバラを植えさせて」と頼む

・高級ホテルで無料宿泊を頼む

 

こういった「絶対に断られる」ことを依頼し、この類の実験を100回も繰り返したそうで、本人も少しずつ拒絶に慣れていったそう。

 

「なるほど」と清水さんは思った。

 

早速やってみようと思ったが、全く拒絶されるセリフが思いつかない。いきなり近所の人に「バラを植えさせて」なんて話しかけては、イカれたと勘違いされてもう散歩もできなくなってしまうし、仮に「ええどうぞ」なんて承諾されても意味がない。

「うーん」と悩んでいると、もう自分一人では限界があると開き直り、誰かに頼ろうと決めた。パッと一人の人物が頭をよぎった。

 

清水さんの自宅から100m程離れたところに柳田という変人のおっさんが住んでいる。60歳くらいだろうか。有名私立大を卒業したらしいが、先祖代々相続してきた大切な土地を勝手に売っ払った金で隠居を始め、ほとんど俗世間には出てこないといった筋金入りである。なんでも猫を数十匹飼っていて、そこらの野良猫を拾っては世話をしているんだとか。

猫好きの清水さんは、「猫好きには変人が多いけど悪い人はいないはず」と思い、あそこまで突き抜けた変人に気を遣うこともないだろうと柳田の家までテクテク歩いていき、インターホンを鳴らした。

 

柳田は眠そうな目をして玄関を開け、「なんです?」と言った。清水さんはいったい自分は何をしているのかと自分で訳が分からなくなったが、もうヤケクソになっていたので、「ちょっと助言をいただきたくて伺いました。あの辺に住んでる清水っていいます」と指を差しながら言った。

柳田は「はあ」と言って清水さんを凝視したが、「まあどうぞ」と促すと奥の方へ歩いていってしまった。

 

居間へ入って椅子に座ると、清水さんは「実はこれを読みまして」と単刀直入に告げて本の表紙を見せると、柳田は「ふーん」と言った。

 

清水さんはしどろもどろになって色々と説明し、最終的に、「拒絶されるセリフが思いつかないから一緒に考えて欲しい」と言った。柳田は「なんで私に?」と尋ねると、「変人じゃないと思いつかないでしょうこういうのは」と答え、「確かにね」と柳田も頷いた。

 

柳田は噂通りかなりの変人のようだが、不思議と全く邪気がなく、むしろ話しやすいと清水さんは思った。そもそも拒絶恐怖症の自分がここまで自然に振舞えていることに自分でも驚いていた。

 

「じゃあ私今から郵便局行くからついてきてください」と柳田は言った。隠居と言っても家に自主幽閉しているわけではなく、普通にコンビニ行ったり猫の餌を買いにママチャリでホームセンターに行ったりしているらしい。

 

郵便局に着くと柳田はカチャカチャ機械を操作し、それを終えると、「じゃあ始めますか」と言った。柳田は清水さんに何かを耳打ちし、その後清水さんは自動ドアを抜けて受付の女性に話しかけた。

 

 

 

 

 

 

「あのすいません、私をゆうパックでピョンヤンまで送って下さい」

 

 

 

すると受付の女性は「は?」と言い、顔を真っ赤にした清水さんは急いで外に出た。

「どうです?拒絶されました?」と柳田が尋ねると、「はい」と真っ赤な顔で答えた。

 

その帰りにココイチに寄ってカレーを食べようってことになった。

店員が注文を聞くと、「チキンカレーで、チーズをトッピングしてください」と清水さんは言った。「辛さはいかがなさいますか?」と店員が尋ねると、すかさず柳田は清水さんに耳打ちし、清水さんは店員に言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「53万でおねがいします」

 

 

 

 

 

 

 

 

店員が「はい?」と聞き直すと、「えーと1辛で」と訂正した。

柳田は「いい調子ですね」と言った。

 

ココイチを出ると、マックでデザートを食べようってことになった。

二人はフルーリーを頼み、清水さんはチキンクリスプを食べたくなったのでそれも注文した。

 

帰り際、柳田が耳打ちすると、清水さんはレジカウンターへ行って店員に話しかけた。

 

 

 

 

 

 

 

「非常に美味しかったです。お礼を言いたいので、シェフを呼んでいただけますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

店員は「いないです」と言った。

 

 

 

 

柳田はニコニコしていた。

 

 

 

 

 

 

帰り道、住職が歩いているのを見かけた。近くに大きな寺がいくつかあり、たまに町の中で坊主が歩いているのを見かける。柳田は耳打ちし、清水さんは住職へ近づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺昨日悟ったけど質問とかある?」

 

 

 

 

住職は「ないです」と言った。

 

 

 

それからも拒絶を繰り返されると、清水さんは確かに少しずつ慣れてきたように感じた。一人で吉野家に行った時などにも、「これ上の肉をねぎとろに変えられます?」などと言って「いや、できないですね」と拒絶されるなど、拒絶技術は少しずつ高まっていった。

 

 

 

 

 

ある日、家から少し離れた道路の脇にあるビニールハウスでがさがさやっているおじさんに、「雇ってくれない?」と言ったら採用されていちごの収穫バイトを始めたらしい。

ダーツ

牧田という若い消防士がいる。彼は非常に心優しく、正義感溢れる頼もしい男である。

 

ある日牧田は高校時代の部活の先輩、高田と夕飯を食べていた。

 

「先輩はいいですよね、お客さんはみんな笑顔でお店に来るでしょう。僕は悲しんでいる人たちの現場に行かなきゃならないんです。それが時々きついんです」

 

パティシエになった高田はこう返答した。

 

「いや、お前自分で救急車とか消防車呼んだことある?もうだめだ、私は死ぬんだって不安で不安で仕方なくて、まさに絶望の真っ只中にある時、希望の光が大きな音を立てて自分を助けに来てくれる、あの普段は他人事のサイレンが自分に向けて全力で飛んできてくれる時、どれだけ心強く、ありがたく、頼りがいのあることか、当事者になってみたら分かるよ。」

 

高田は続ける。

 

「俺たちの心の中には、何かが起きても消防士さんが助けに来てくれるって安心感がどこかにあって、だから甘えて危険な行為をしてしまう時もあるんだろうけどさ。例えばうちの実家の近くにいい感じの崖があって、アマチュアクライマーなんかが良く集まってたんだけど、落っこちてヘリコプターが負傷者を運んでいくなんて日常風景で。けどあまりにも転落事故が多すぎて、コストがかかりすぎるからこれ以上ドクヘリを派遣できないって県議会で決められちまったんだ。そしたらどうなったと思う?その崖を登るクライマーは一人もいなくなったよ」

 

牧田は「へぇー」と興味深そうに聞いている。

 

「お前のおかげで俺たちは日々安心して生活できるんだ。だからいつもありがとな」

 

高田がそう言うと牧田はジーンと来てしまい少し泣いた。

 

二人がそんな話をしてからしばらくして、牧田は救急救命士の国家試験に合格したのだと高田へ報告した。

 

「これから先輩に何かあったら僕が救急車で助けに行きますからね」と牧田は言った。

 

そのフリに答えるかのようにある日高田は119へダイヤルし、牧田が駆けつけることとなった。

 

なんでも近くの崖からバンジージャンプしてチンポを負傷したらしく、勃起したチンポがダウジングロッドのように曲がっていたらしい。

 

高田は地面にテンガを置いて勃起したチンポをぶち込もうと試み、自前の強力な命綱をぶっとい木に巻き付け、スカイダイビングで両手両足を広げて空中滑降する態勢で飛び降りたらしい。

勇者

あるゴルフ場で、カート走路の一部を拡張する工事が行われようとしていた。なんでも18番ホールからクラブハウスに戻る時、道が狭くて通りづらいとのクレームが増えてきたらしく、対策を余儀なくされた。

 

しかし大きな問題があった。その道のど真ん中には大きな御神木がそびえ立っていたのだ。道が狭いのはそのためであり、ゴルフ場が建設される前からそこに生えていた御神木を建設会社もオーナーも伐採することができず、「まあ多少狭いけど通れないことはないから」ということで残しておいた。

 

しかしあまりにもクレームが増えると、客商売なので放っておくわけにもいかなくなる。常連やメンバーは「まあ御神木様だからね」といった感じで目を瞑っていたが、客の8割はビジターである。客足を引かせないため、仕方なく経営サイドは御神木の伐採を決定した。

 

それでも事はスムーズには進まなかった。なぜなら「誰が切るの?」と、新たな問題が浮上したからである。建設会社に依頼したり、知り合いの林業家や造園会社の社長などに問い合わせても、「御神木は切りたくない」と突っぱねられてしまうのだった。

日本人は無宗教の人が圧倒的に多いが、祟りの類は割と信じる人が多く、御神木をぶった切ったりしたら、神様の天罰か何か悪いことが起きるに違いないと思う人は少なくない。

 

結局着工できないまま数週間が過ぎてしまい、経営サイドは真剣に頭を抱えていた。

 

ある日、コース管理事務所で支配人とグリーンキーパーがその話をしていると、ある男が聞き耳を立ててその話を聞いていた。

 

 

「山さん」と呼ばれる男だった。

 

 

彼は自他共に認めるギャンブル中毒のおっさんで、仕事以外のほとんどをパチンコ屋で過ごし、本人が「家にいるよりパチンコ屋にいる時間の方が長い」と豪語するほどギャンブルに溺れている男だった。山さんは仕事中にも同じ事務所内の人たちに「賭けない?」などとよく吹っ掛け、ある日には、ミミズを見かけると、「あれに小便をかけてチンポが腫れる方に千円」などと博打を始め、全く腫れないのでチンポをこすって勃起させてから「ほら腫れた、はい千円よこしな」と言ってイカサマをするなど、職場ではあまりいい印象を持たれていなかった。

 

「できる限り山さんには関わらないようにしよう。」

 

みんな密かにそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワシ、切りましょか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の話を聞いていた山さんが唐突にそう口を開いた。

 

 

その瞬間「もうこいつに切らせるしかない。」とそこにいた全員が思い、同意した。

 

 

早速会議が開かれ、「山さんが切ってくれるそうです」と支配人が発表すると、ワッ!と会議室が湧いたそうである。

 

会議が終わると早速御神木の周りに人が集まり、軽トラに乗った山さんがチェーンソー片手に颯爽と降りてきた。

 

従業員達は固唾を飲んで山さんを見つめ、実際はただのギャンブル中毒のおっさんをヒーローのように崇めていた。山さんはブルンッ!とチェーンソーのエンジンをかけ、トコトコ御神木に歩み寄ると、なんの躊躇もなくぶった切ったそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、山さんはパチンコで爆勝ちしたらしい。

プライド

日本の西の方に某スポーツ強豪校があり、そこに地元で有名な名物監督がいた。

その監督は小さな団地に住んでいたが、全国から合宿で集まってくる選手達に、宿泊費が少しでも浮くようにと部屋に泊めてあげたりしていた。

優しくて、心の広い先生であると有名だった。

 

次第にその団地には有名大学のアスリートも集まってくるようになり、ある大学生アスリートが宿泊させてもらうと、「その部屋にはあのオリンピック選手も寝泊まりしていたんだよ。だから君もオリンピックに行けるといいね」と言って微笑んだ。

 

さらにこの名物監督、サッカーゲームのウイニングイレブンが得意らしく、本人曰く「一度も負けたことがない」のだそうで、新しく選手が来ると、親睦を深めるためにまずウイイレを一緒にやって距離感を縮めていた。

 

ある日、某大学の選手2名がその団地に泊めさせてもらうことになった。

 

監督がプレステの電源を入れると、2人のうち片方の大学生が、

「いやーウイイレってかゲーム自体そんなやったことないんすよねぇ」と言ってあんまりやる気なさそうな感じを出すと、監督は「それならハンデとして君が僕のチームを選んでいいよ」と言い、「じゃあ日本で」と指定した。

ちなみにこの大学生はそもそもウイイレをやったこともなければサッカーもよく知らないので、なんだかよく分からないけど母国だからって感じで日本を選択した。当の大学生本人は画面でステータスを確認し、一番強そうなアルゼンチンを選択した。監督は、「おいおい、お手柔らかに頼むよ」と言って笑っていた。

 

試合が始まると大学生はそこそこいい動きを見せ、初めてにしてはかなりセンスのあるプレイをしていた。体育会系の選手は格闘ゲームなどでもセンスを見せることが多く、スポーツ系のゲームは感覚的にできてしまうのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果、12-0で大学生が圧勝。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボコボコにされた監督のメンツは丸潰れとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌年からその圧勝した選手の出身大学に所属する選手達は宿泊拒否になったと聞いた。

更生

美咲と春香は連休中ある島を訪れた。有名観光スポットである。

 

二人はレンタカーを借り、海岸沿いの駐車場へ停めると、早速海へと繰り出した。

 

思いっきり泳いでみたり、浮き輪でプカプカ浮いてみたり、のんびり日焼けしたりと海を満喫し、そろそろホテル戻ろっかーと車へ戻ると、美咲は急に青ざめた。

 

「やば、鍵ないんだけど」

 

着替えた時か、海の家で昼食を食べた時か、ポケットからスマホを出した時か、全力で記憶を辿っても全く手がかりがない。

 

「とりあえず戻って探そう」

 

二人は先ほどまではしゃいでいた場所へ戻り、砂浜を往復したり姿勢を低くしたりしながら全力で探したが全く見つからない。

 

一時間ほど探しても見つからないので、「一回レンタカーの会社に電話してスペアあるか聞いてみよう」と言って電話をしようとすると、一人の体格のいい男に話しかけられた。

 

「どうしたの?」

 

良く日焼けした爽やかな雰囲気の男で、二人は「絶対現地の人だな」と気づいた。かれこれこうでと経緯を説明すると、男は「分かった、ちょっと待ってて」と言って電話をかけだした。通話が終わると、「どこから来たの?」「あそこはおいしいから絶対行った方がいいよ」「どこに泊まるの?」などと世間話に花が咲き、二人の鍵を失くした焦りはかなり落ち着いていた。

 

しばらくすると、すこしイカつめのミニバンが駐車場へ到着し、これまた体格のいい男が車から降りてきた。ドアをバタンと閉めると、ハンガー片手に無言で突っ立っている。二人は、「スタローン?」と思った。シルベスター・スタローンにそっくりだったらしい。

 

爽やか男が「おー久しぶり」というと、スタローンは無言でレンタカーへとズカズカと歩み寄り、ハンガーでなにやらガシャガシャやりだした。

「あの人何してるの?」と美咲が聞くと、「ああ、あいつ元車泥棒なんだよ」と爽やか男がスーパー爽やかな笑顔で言った。

 

車泥棒と言っても前科などがあるわけではなく、10代の頃、若気の至りで知り合いの車を勝手に開けてはちょこちょこ運転し、「あいつまたやりゃがったああ!!」と、大人達もドタバタコメディ的な感じでそれを楽しんでいて、島のやんちゃ坊主達が大人になると、「あの頃はハチャメチャで楽しかったなあ!」なんてみんなで話しながら今では酒の肴になり、「最近はやんちゃなやつがいないからつまらん」と当時の大人も懐かしく語ったりするんだそう。

 

「へ、へえ」と二人は言って苦笑いした。

 

スタローンがしばらくガチャガチャやると、「ガチャンッ」と音を立てて鍵が開いた。

 

「すごー!!」と二人は同時に言うと、お礼にコンビニでセブンスターのカートンを買ってプレゼントしたが、スタローンは一度も笑わず口も利かずにさっさと帰って行った。

 

「あいつ心を開かないと誰とも話さないんだよ〜気にしないでね」と爽やか男は言った。

 

それから家に招待されてワイワイと宴会を開いてもらい、鍵をなくしたおかげでかえって楽しい旅行になったと嬉しそうな二人だった。

 

ちなみに宴会のスタローンは春風亭昇太みたいなテンションでプロレスしていたらしい。

どっち?

あるSMクラブに警察のガサが入った。そこはバーを謳っていたので、業務形態的に問題があったのか、そこら辺の真相は分からないが、とにかく警察がいきなりカチ込んできた。

 

そこでは常連の玉木さんがまさにプレイを受けている最中で、三角木馬に跨り、猿ぐつわをはめられ、目隠しをされた状態でフガフガやっていた。

 

「はーい動かないでねー」

 

警察がそう言うと、玉木さんは息を漏らすように「ふぁああい」「うごけまへんよぉ」と言った。その日は玉木さんの誕生日だったので、店長が気を利かせてサービスを追加してくれたと思い、「やるじゃん」と内心テンションが上がっていた。

 

警察が玉木さんに近づき、目隠しと猿ぐつわを取ると、玉木さんは「お、リアルだねぇ」と言った。

 

「これどこに売ってんの?アマゾンで買える?」などと立て続けに質問した。

 

「本物の警察ですよ」と警官が言うと、「上手だねぇこの子は~」と依然プレイだと思っている。

 

警察が「バーの詳細を事情聴取したいので、一度署まで来ていただいていいですか?」と玉木さんに尋ねると、彼は「いいよ~」と言ってパトカーに乗せられた。

 

玉木さんはパトカーの窓から、

「これガチのやつ!?プレイ!?どっち!?どっちィ!?」と叫んでいた。

転職

ゴルフ場へ転職した館野という真面目な男がいた。仕事を覚えるのが非常に早く、またコミュニケーション能力にも長け、現場での信頼もすぐに勝ち取った。中途で入ってきた彼は歓迎され、いい子が入ってきてくれたと支配人も嬉しそうだった。

 

しかし彼はただの変態だった。

 

館野は幼少期、デパートに突っ立っているマネキンのパンティーをズリ下ろし、勃起してしまった。それから人形を見ると勃起してしまうようになり、下手をすると畑に立っているかかしを見た時でさえ、ちんぽがツンッ反応するようになってしまった。彼は対策として、かかしの下半身に電動バイブを仕込み、そこを通る度に遠隔でうねうねさせるなどして勃起しないように対策をしたが、畑のじーさんがとびっこに気付いてぶちキレ、処分されてしまった。

 

そんなこんなで館野は社会人になると、ダッチワイフやラブドール収集に躍起になった。現実の女性にはあまり魅力を感じず、相変わらず人形に夢中になっていた。しかし根が真面目なので、このままではアレだよなぁと思い出会い系サイトに登録してみたり、相席居酒屋に行ってみたり、ある程度の努力はしていた。

 

そんなある日、先輩にソープへ誘われた。いい機会だからと連れて行ってもらい、初のローションプレイを経験すると、3秒でイってしまった。それから彼は現実に目覚め、ソープやヘルスに夢中になったが、10秒も経たずにイってしまう。一回160000円である。決して安くはない。いや、ソープの中では安いにせよ、16000円が10秒で吹っ飛んでしまうのはサラリーマンには痛手である。これでは家計が持たない。館野はなんとかならんものか、何かいい方法はないものかと模索していた。

 

ある日ゴルフ場の朝の会議で、支配人は「最近電圧計がおかしいからあまり近づかないように」と作業員へ通達した。ゴルフコースには野生動物が多々出現し、猪や鹿にグリーンをめちゃくちゃにされた、なんてことが結構起きる。グリーンにはミミズがたくさんいるので、それを捕食するために掘り起こされてしまうのだ。それで大抵のゴルフコースには電気柵が張り巡らされ、野生動物の侵入を阻止している。しかしやつらの跳躍力は人間の想像を遥かに超え、この高さを飛び越えたんですか?っていうレベルのジャンプをする。それで時々電気柵に鹿が引っかかってボロボロになり、電圧計がおかしくなる。

 

「それからもう一つ」と支配人が付け足した。

 

なんでもボール泥棒が出るらしく、夜な夜なコースへと侵入し、ボールを盗んでいく輩が出没するらしい。ロストボールはそれなりに高値で取引されるので、盗むやつが後を絶たない。もし怪しいやつを見たらすぐに知らせてほしいとのことだった。

 

 

 

しばらくすると、「泥棒が誰か分かったかも」、と良からぬ噂が流れた。その噂は支配人の耳にもすぐ届いた。なにやら仕事が終わった後に、館野がコース内に夜な夜な侵入していくの見たと言う社員が数人現れたのだ。しかし真面目な彼が盗みなどするはずがない、とみんな思った。それくらい高い信頼を館野は勝ち得ていたのだ。

 

数日後、グリーンキーパーと支配人は張り込みをすることにし、館野の動向を探っていた。「まさかね」、と思いながら仕事終わりに二人で見張っていると、確かに館野が事務所の裏手、14番コースの山林の中へ消えていくのがはっきりと見えた。二人は「まじかよお」とかなり落胆した。信じていたのに。「はあー」と二人でため息を漏らした。

発見してしまった以上責任者として見逃すわけにはいかない。そもそもボール泥棒は立派な犯罪。二人はもう辞めてもらうしかないと思っていた。

バレないように後をつけ、少し開けた場所へ着き、息を潜めて館野を見ていると、何か叫び声のようなものが聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアアアッ!!」    「ハアアアアニョップ!!」     「ペーレストロイカ!!」

「ターマちゃンゥ!!!」     「デォッパリ!!」    「アイッヒヒヒイイイイ!!」

 

 

 

 

 

そこそこ大きな声だった。近づいてよく見ていると、館野がチンポを電気柵に押し当てて、「オホホオオ!!!!!」などと叫んでいるようだった。

 

二人は館野に近づき、「何してるの?」と声をかけると、「ヒイイイイ!!!」と腰を抜かしてすっころんだ。

 

二人は館野を問い詰めた。

 

なんでも前の職場で先輩にゴルフに誘われ、派手にOBをかまして林に入った時、電気柵に触れてしまい心臓が止まるかと思った。しかしその時ふと、「これってチンポ鍛えられるんじゃないの?」と閃いた。早漏を治す方法を模索していたので、これしかないと思った。しかし先輩が待っているのでチンポを鍛えている時間はない。もう転職するしかないと思い、ここへ応募したと館野は白状した。

 

支配人は、民家も近いので大きな声を出さないこと、電圧を勝手にいじらないことを条件に館野を許した。一生懸命やってくれているからと、日ごろの行いが功を奏した。

心配性

ある会社に鳥立さんという苗字の営業マンがいた。彼は非常に真面目で、会社内の評価も高かった。そんな彼が退職することになり、みんな残念がっていた。

 

ある日、鳥立さんがコピー機を持って家を出発すると、それを見た父親が鳥立さんの会社へ電話をかけた。

 

「今うちの息子が爆弾をしかけたコピー機を持って家を出ていきました。気をつけてください、うちの息子はキレると何をしでかすか分からないんです」

 

なにやら鳥立さんの両親の家系は共に先祖代々癇癪持ちで、とにかくキレると何をするか分からない、プッツン家系であるとのことだった。普段は大人しいが、どのタイミングでプッツンがやってくるのか自分たちでもコントロールができないらしい。息子が退職するにあたり、いつも愚痴っていた支店長に復讐するに違いないと思った父親が、このタイミングでコピー機を持ち出すなんておかしい、きっと爆弾でもしかけてテロを起こすにちがいないと心配して電話をかけたのだ。実際には引継ぎに必要な保険の書類を車内でコピーし、直接お客様に渡す為に持ち出しただけだった。電話に出たのは鳥立さんの3つ上の先輩で、父親の声は震えていたらしい。

 

「私も妻も宗教に入信し、神の力で癇癪をなんとか封じ込めている。しかし息子は信仰を持っていないんです。なんとか息子を止めてやってください」

 

鳥立さんがコピー機を持って事務所へ入ると、空気が騒然となった。

 

「鳥立、落ち着け、そういうことをしてはいけない。話し合おう、お前なら分かるはずだ」

 

と支店長は言い、従業員は壁際に寄り、まるで銀行強盗とそこで怯える人質達みたいな感じになっていた。

 

「?」となった鳥立さんは焦り気味の先輩から説明を受けた。「さっき父親から電話があったんだ。お前が爆破テロを起こすと言ってた。お前がそんなことするはずない」と先輩も力強く説得した。鳥立さんは非常に真面目で社内の評価も高かったので、話せば分かるやつだとそこにいるみんなが信じ、心は一つになっていた。

 

「いや、これ最後の引継ぎに必要な書類をさっき営業車でコピーするのに使っただけですけど」

 

鳥立さんがそう説明すると、「なーんだ」といった安堵の空気に変わり、社員たちは各々の業務へと戻って行った。

 

鳥立さんは営業所内をピカピカに掃除し、取引先全てに挨拶を済ませ、個人のお客様宅へ引継ぎのお詫びに手土産を持参し、営業所内の全ての人に丁寧にお礼を言って頭を下げると、最後に会社へ一礼し、退職していった。

 

テロ予告の電話を受けた先輩が最後に、「結局立つ鳥後を濁さずでしたね」というと、所内は「ほぉーん」みたいな空気になった。