令和拾遺物語

実話を元にした現代の拾遺物語です

勇者

あるゴルフ場で、カート走路の一部を拡張する工事が行われようとしていた。なんでも18番ホールからクラブハウスに戻る時、道が狭くて通りづらいとのクレームが増えてきたらしく、対策を余儀なくされた。

 

しかし大きな問題があった。その道のど真ん中には大きな御神木がそびえ立っていたのだ。道が狭いのはそのためであり、ゴルフ場が建設される前からそこに生えていた御神木を建設会社もオーナーも伐採することができず、「まあ多少狭いけど通れないことはないから」ということで残しておいた。

 

しかしあまりにもクレームが増えると、客商売なので放っておくわけにもいかなくなる。常連やメンバーは「まあ御神木様だからね」といった感じで目を瞑っていたが、客の8割はビジターである。客足を引かせないため、仕方なく経営サイドは御神木の伐採を決定した。

 

それでも事はスムーズには進まなかった。なぜなら「誰が切るの?」と、新たな問題が浮上したからである。建設会社に依頼したり、知り合いの林業家や造園会社の社長などに問い合わせても、「御神木は切りたくない」と突っぱねられてしまうのだった。

日本人は無宗教の人が圧倒的に多いが、祟りの類は割と信じる人が多く、御神木をぶった切ったりしたら、神様の天罰か何か悪いことが起きるに違いないと思う人は少なくない。

 

結局着工できないまま数週間が過ぎてしまい、経営サイドは真剣に頭を抱えていた。

 

ある日、コース管理事務所で支配人とグリーンキーパーがその話をしていると、ある男が聞き耳を立ててその話を聞いていた。

 

 

「山さん」と呼ばれる男だった。

 

 

彼は自他共に認めるギャンブル中毒のおっさんで、仕事以外のほとんどをパチンコ屋で過ごし、本人が「家にいるよりパチンコ屋にいる時間の方が長い」と豪語するほどギャンブルに溺れている男だった。山さんは仕事中にも同じ事務所内の人たちに「賭けない?」などとよく吹っ掛け、ある日には、ミミズを見かけると、「あれに小便をかけてチンポが腫れる方に千円」などと博打を始め、全く腫れないのでチンポをこすって勃起させてから「ほら腫れた、はい千円よこしな」と言ってイカサマをするなど、職場ではあまりいい印象を持たれていなかった。

 

「できる限り山さんには関わらないようにしよう。」

 

みんな密かにそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワシ、切りましょか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の話を聞いていた山さんが唐突にそう口を開いた。

 

 

その瞬間「もうこいつに切らせるしかない。」とそこにいた全員が思い、同意した。

 

 

早速会議が開かれ、「山さんが切ってくれるそうです」と支配人が発表すると、ワッ!と会議室が湧いたそうである。

 

会議が終わると早速御神木の周りに人が集まり、軽トラに乗った山さんがチェーンソー片手に颯爽と降りてきた。

 

従業員達は固唾を飲んで山さんを見つめ、実際はただのギャンブル中毒のおっさんをヒーローのように崇めていた。山さんはブルンッ!とチェーンソーのエンジンをかけ、トコトコ御神木に歩み寄ると、なんの躊躇もなくぶった切ったそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、山さんはパチンコで爆勝ちしたらしい。