令和拾遺物語

実話を元にした現代の拾遺物語です

草野球チームでセンターを守る保守派

保守派思想の後輩の話。

 

元々真面目な奴だったが高校へ進学した頃から学校、家庭、世の中への不満が高まるばかりで非行へ走り出し、ぐちゃぐちゃした気持ちのまま高校を退学後、暴走族へ入った。

手先の器用だった彼は原付の改造にハマり、日に日に高くなるハンドルは限界を突破。常にバンザイ状態をキープせざるを得ず、バーベルを上げ終わったスナッチのようなフォームでバイクを運転していた。彼曰く、二段階右折に難儀するそうだ。

 

後輩は特にやることもなく鬱々と毎日を過ごしていたが、久しぶりに電話すると、最近草野球チームに入れてもらって生活にメリハリが出来て充実してます!というので先輩も安心した。一つ懸念があるとすれば、そのチームはかなり保守的思想のプレイヤーが多く、根が素直な後輩はやはりその思想に染まっていった。

 

その野球チームはいわば万年弱小だった。聞けば結成以来一度も勝ったことがないのだという。そんなことはあり得ないだろうと言う先輩に、「いやまじなんすよねこれが」と後輩は言った。

理由を聞くと誰もレフトをやりたがらず、常に左がガラ空きなんだそうだ。相手も馬鹿じゃないから集中的にそこを狙い打ちしてくる。後輩はセンターを任されているので必然的にレフトも兼ねることになり、ポジション取りも気持ち右寄りだったのでめちゃくちゃ走った。ついたあだ名は陸上部だそうだ。

「じゃあ八人チームなんだ?」と聞いたら、「いや、ライトに二人っすね」と後輩は答えた。時々酒が入ると全員ライトにいることがあり、度々相手チームからクレームが入るらしい。

一度チーム内でサフトという独自のポジションを作ったらどうだろう?という案が出たが、サードのよっさんが「疲れるから嫌だよ」と断って白紙になった。

それならセンターから少し左に寄れば?と提案すると、「いやぁ、うす、うす」と言いながらにやにや笑い、国旗を挿した原付に乗ってバンザイしながら帰って行った。少し先の信号で止まり、頑張って二段階右折をしていた。