令和拾遺物語

実話を元にした現代の拾遺物語です

ある田舎町の駅伝大会

毎年の駅伝大会が恒例行事の田舎町がある。

 

そんなに大きなイベントとは言えないが、地元の消防団、商工会、病院、スポーツジム、学校の先生、中学生の野球部やバレー部など、参加チームはそれなりに多く、適度な緩さも手伝ってそこそこの盛り上がりを見せている。毎年の優勝チームには旅行券が授与されるなど、地元自治体もそれなりの経費を惜しみなく計上していた。

 

しかしどうにもこれがキナ臭いらしい。毎年の優勝は決まって消防団であり、隣町や下手をすれば隣県から健脚者が集められ、チーム編成されていた。要は出来レースというか、中にはやらせなのでは、と疑う人も少なくなかった。今年も隣町の元陸上部などが消防団チームに紛れ込んでいた。

 

さらにこの大会、各チーム名が結構面白いのも特徴的であった。商工会は痛風軍団と自虐したり、消防団は痩せろメロス、他にも地球防衛軍、ナメナメ派大王、地元猟友会はテポドンズなど、用紙の参加チーム一覧を見るだけで結構笑えて、そこかしこでクスクスやっている。

 

その中でもひと際目を引いたのが、

「脱獄犯」

というチームだった。これは地元の中学生チームで、プリズンブレイクだか大脱走だかを観たメンバーの一人が面白がって命名した。しかし名前はふざけているがこのチーム、実は後にチーム全員が駅伝強豪校へ進学し、将来的に全国大会出場へと導いたゴリゴリのエリートチーム。緩いイベントなのでなんとなく現役の陸上部は空気を読んで参加を見送っていたが、毎年の消防団優勝の暴挙に納得がいかない自治体の若手が刺客として送り込んだらしい。

 

ちなみにこの五人衆、この大会前にバットでバレーボールを打って遊んでいたら保健室の窓をぶち割ってしまい、罰として全員坊主頭にされていた。かくして丸坊主の脱獄犯が消防団討伐へと向かったのである。

 

レースが始まると、先導車両に乗ったユージローさんがマイクパフォーマンスで盛り上げるのが毎年恒例だった。ユージローさんは昔東京でDJをやっていた経験があり、マイクの扱いには慣れている。ただ走っているだけではアレなので、マイクで実況するなり盛り上げて欲しいと会長に頼まれ快諾した。

 

「えー元気よく始まりました第31回花沢駅伝大会(仮名)実況は毎度お馴染み私ユージローがお届けいたしますよろしくおねがいします」

 

各チーム一斉に走り出し、先頭はもちろん脱獄犯と消防団である。ちなみに先導車はずっとランナーの先頭を走るわけではなく、各ランナーの横や後ろについて拡声器を使って実況するスタイルだ。

 

 

「えー痛風軍団第1走者は金村さんのっけからくたばりそうです尿酸値は容赦なく上昇中」

 

 

 

「えー痩せろメロス第2走者はアル中の柿沼さんいきなり給水の催促をしているが中身は十中八九焼酎の水割り」

 

 

 

「えー地球防衛軍第3走者は永島さんそんなんで地球を守れると思うなボケナス」

 

 

 

「えーナメナメ派大王第4走者の落合さん最近神の啓示を受けヘブライ語学習を開始」

 

 

 

「えーテポドンズ第5走者高橋さん説得の末父親がついに運転免許を自主返納」

 

 

 

蓋を開けてみれば中学生とはいえ現役の駅伝選手。元陸上部や自衛隊員などをチームに混ぜたところで毎日毎日走りこんでいるアスリートに敵うはずもなく、結局最後から最後まで脱獄犯は断トツで先頭をキープし、逃げ切った。

 

自治会長の機嫌はすこぶる悪かったらしい。なぜなら今年の優勝賞品は奮発して高野山旅行にしていたからだ。消防団を優勝させて自分も行く予定だったのに、脱獄犯に高野山行きを阻止されてしまった。大会終了からしばらくして、丸坊主の脱獄犯5人は高野山へと旅立って行った。

 

その年以降、陸上部は速すぎるのでオープン参加枠になったとのこと。