令和拾遺物語

実話を元にした現代の拾遺物語です

意思を持った中指

ヘヴィメタルバンドのギタリスト、まー君はとにかく女にもてまくっていたが、一つの固い信念を持っていた。本当に愛せる女が見つかるまでは、手マンはいずれにしてもちんぽは挿入しない、との誓いである。彼にどんな過去があるのかを誰も知らないが、とにかくそれを守り続けていた。まー君は現在25歳になるが未だに童貞。しかし手マンした人数は数百人を超えるらしい。「ちんぽは童貞だけど、こいつは16歳で卒業」と言っては中指を突き立て、ファック!というのが彼の口癖だった。

 

 

そんな彼はバンド内で広報担当を任され、SNS発信のためにフェイスブック、インスタ、ツイッターなどを始めた。始めは良く分からなかったがすぐに上達し、昔の友人達のタイムラインにいいねするなどして楽しんでいた。

 

 

ある日適当にフェイスブックを流し見していると、彼はスクロールしていた親指を止め、体を起こして‘友達かも?’を凝視した。

 

元カノである。

 

しかもただの元カノではない。昔一度、人生でたった一度だけちんぽを挿れかけたあの元カノである。

 

 

「人生で最も手マンしたのは彼女です」と彼は言う。

 

 

数あるバンギャと夜を共にしたが、「やべぇ、愛すのかも、俺。」そう思わせた女は彼女が初めてだった。

 

 

旅行好きの彼女は色々な国、カフェ、タピオカなどの写真をアップし、ハワイではロコモコをおいしそうに食べながら満面の笑みでアロハー、マハローなどしていた。懐かしいな、元気そうだな、なんて思いながらさらにスクロールしていくと、今日のホテルはここでーす!的な写真を見つけ、まー君は驚いて顔面をスマホに急接近させた。昔その元カノと訪れたハワイアン66という名前のラブホテルにそっくりだったのだ。

「まじかよ、似すぎじゃないこれ?」と思ったが、ハワイアン66を作った支配人はおそらく実際にハワイを訪れ、素敵な部屋に感動して写真を撮り、それを日本で真似して造ったのかな、と思った。彼は懐かしさのあまりいいねを押したが、そこで自分の行動に唖然としてしまった。

 

 

 

 

 

中指でスマホをタップしてしまったのである。

 

 

 

 

 

あまりにも手マンしすぎたのか、それともハワイアン66の記憶が無意識的に蘇ったのか、それは分からない。

 

「強い恐怖を感じました」そう彼は語った。

 

元々彼はプロギタリストであり、指使いを間違えることなどどんな状況にせよ許されない。そういう次元の世界に生きているのである。

「マズいなぁ」とまー君は思った。それからしばらく知恵熱が出る程考え抜いた挙句、なんとか一つの解決策に辿り着いた。

 

「手マンローテーション方式」である。

 

中指だけを使うのではなく時に人差し指、薬指などを使い、曜日ごとにシフトを固定。「あれれ、昨日はどっちだったかな?」ってなるのを防ぐためだ。

せっかくこれだけ速弾きできるんだし、左手もローテーションに加えようかな?と悩んだそうだが、「スピードは申し分ないが、いかんせんパワーが足りない。」と結論付けた。

 

それから彼は時々シフトをミスったりしながらフィンガーローテし、中指事件を乗り越えた。

 

「さすがに小指の手マンはきついんじゃないの?」と質問されると、アロハ~の要領で手首を横に意識して振るなど工夫していて、「まだまだ改善の余地はあります」と日々修繕に努めているそう。