令和拾遺物語

実話を元にした現代の拾遺物語です

男子三日会わざれば刮目してみよ

中田という男がいた。彼は大学時代サッカーサークルに所属し、試合でもそこそこの存在感を見せていた。

 

少し変わっていたのは、中田は飲み会で水しか飲まなかった。なぜかは分からない。彼は頑なに水を飲みたがり、「すいません、水ください」と、全員がビールを頼む場面でもとにかく水に強いこだわりを持っていた。

さらに変わっていたのは、彼は飲み会の最中、とにかくひっきりなしに水を飲み続け、吐き続けていたことだ。「すいません、水をください」と店員に頼んではそれを一気飲みし、「うぇえ!」と言ってはゲロを吐き、「うう、気持ち悪い、すいません水をください」と言っては飲み、吐きを繰り返していた。それを見ていた橋本という男は、彼はもしかして摂食障害なのでは?と思った。世の中にはいろいろな疾患があり、水中毒というものも存在する。しかし結局最後まで彼が水を飲み続けていた理由は分からず、卒業式を迎えた。

 

28歳になった営業マンの橋本は、夏の突き刺すような暑さの中、自動販売機で買った水を一気飲みしていた。そこで「あっ」と、あの時飲み会で頑なに水を飲んでいた中田を思い出した。「元気かな、あいつ。」橋本はポケットからスマホを出し、中田へ久しぶりに電話をかけた。

「おー久しぶり、元気だよ」と第一声中田は言った。さらに続けて、「実は今成田空港にいるんだ」と言った。彼はどうしてもサッカー選手になる夢を諦めきれず、三年かけてせっかく受かった公務員を辞め、まさに今から海外へトライアウトを受けに行くというタイミングだった。

 

後に彼は無事合格し、実際にプロサッカー選手として海外でプレーしたと聞いた。いい成績を残せたのかどうかは知らない。しかし彼は子供のころからの夢を叶えたのだ。

 

さらに中田は帰国後、障碍のある子供たちのためにサッカーチームを作り、運営を始めた。

 

「簡単に諦めちゃだめだ、夢は叶うんだよ。やればできるんだよ」

 

そう子供に語り掛ける彼の背中には説得力がある。